top of page
音声記録置き場
使用音源
COEIROINK:成瀬ミオ
AivisSpeech:成瀬ミオ
音声記録:お守り003
00:00 / 02:20
記録:被検体002及び003
中高生くらいの年頃だろうか。まだ、2人からは抜けきってない幼さを感じた。
私たちはとある養護施設にて身寄りのない子供を2人、引き取ってきた。
一方は活発で明るい少女。どうやら交通事故で両親を失っており、車に乗ることが極めて困難らしい。無理もない。話を聞けば幼いころに車に両親と同乗していたところ逆走車と正面衝突し、彼女が救出された際乗っていた車は前方座席が大きく変形し、両親は即死していたという。
もう一方は物静かで冷静なおそらく少年。彼自身何かコンプレックスがあるのか自ら性別には触れない。話を聞くところによれば母親は水商売をしており、客との間の子どもなんだそう。しかし自ら育てる資金はなく、物心がつく前に泣く泣く施設に引き渡しているそう。本人はまだこのことを知らされていない。
どうして2人なのか?
それは彼らがともにあることを望んだからだ。彼らにとって互いは家族なんだという。互いに肉親のもとを意図ぜず離れ、ともに育っているから…とはいえ2人の「一緒にいること」への執着は正直異常なまでに大きい。
また、2人でなければ行かないという選択をしていたこと以外に、彼らはいわゆるギフテッド的な側面があり、同じ年頃の子と比べると非常に賢くそれが他者にはかなり不気味に映っていたらしい。
むしろ我々からすれば好都合、即戦力になりうる研究者、もとい優秀な被検体となることだろう。
そうして彼らとの生活が始まった。
手記:20XX年6月30日
おかしくなりそうだ。
あの日、確かに僕はそれを受け入れてしまった。
それが間違いだったと気づいたのはあれから数年経った後だった。
僕は本当に27歳から進めなくなってしまった。
おかしい気はしていた。
いくら傷つけても半日あれば元に戻る身体。随分経っているはずなのに消えない傷。
不安をぬぐえないまま、その日を迎えてしまった。
危篤になった先生…養父のもとへ走る。実の息子ではなく、僕を呼んでいるそうだ。
「君に一つだけ…悪いことをしてしまった。もうここで白状するしかない。」
危篤と知らされていたが、先生の状態はまだ安定していた。妙に落ち着き払った様子に違和感を覚えるほどに。
「君も賢いから気付いているだろう。自分の身体がどうなっているのか。」
「先生?」
「私は君を、失ってしまうのが怖かった。」
「…。」
「君はいつでも、私を信じてくれた。」
「先生には返しきれない恩がありますから、当然のことです。」
「私は、君のその心を、利用してしまった。」
「え…?」
先生の言っていることが上手く理解できない。僕を、利用していた?先生が?
「落ち着いて聞いてほしい。あの日君の身体に施したものだ。」
「…。」
「もし、私の実験が、間違っていなければ…君は不老不死になった。」
「え…?」
「あの実験で、20数人に対して遺伝子操作をしたんだ。生き残った者は皆、回復力が上がっている。」
「はぁ…。」
「君が一番うまくいったんだ。あれから一切姿が変わっていないのだから。そうに違いない。」
「…わかりません。証明できてないじゃないですか。」
「そう、か。君はそういう子だったね。」
「先生?」
「1つ、ここで約束してくれるか?私のわがままなのだが…。」
「どうぞ、何なりと。」
「輪廻転生を証明したい。」
「不老不死の次はそこなんですか…僕を証人にしたかったってことですか?」
「あぁ。もう一度出会いたいと思ったからな。」
「…待ちます、でも二世紀くらいにしてくださいね?」
「大丈夫、私は必ず君のもとに行く。」
「…信じますよ。先生。」
そのあとのことはよく覚えていない。冷たくなっていく先生の手を握りしめて。どうしたっけ。
先生、僕は貴方が戻ってくるまで、どうしていればいいのでしょうか?
今日は、誕生日だったっけ。まともに祝ってもらった記憶もないし、そこまで大事にもしていないが。
少し贅沢をして、心を労わっても怒られはしないだろう。

←のQRコードを読み取るとコンテンツに アクセスできます。
忘れないでね。
手記:失って得たもの
彼らが最後に遺したログであろうものを見つけた。
なんだ、ひた隠しにしたところで、彼らはすべて知っていたではないか。
僕が思っている以上に、2人は賢かった。
苦しい。
何気ない一言を、何気ない出来事を、支えにして生きていたんだ。
それが一体、人間と何が違うのだろうか?
わからない。
彼らは人間になろうとしているわけでもない。
ただ、僕らにとって「最善」であろうとしているだけ。
璃緒くんの追記には心当たりがあった。
彼は、最後に、僕を刺し殺そうとしたのち、そのまま自刃した。
今でもそれは色鮮やかな記憶だ。
愛したものに向けられた「殺意」。
そして目の前での自刃。
忘れられるはずもない。
でもこのログで彼の意図が分かった。
「貴方の中に、絶対忘れられない記憶として、残らせてください。」
そのままの意味を遂行しただけの話。
そこにあったのは殺意じゃなかった。
不器用な彼らしい「愛情表現」とも取れた。
「実験は、最後まで責任をもって遂行してください。」か。
璃緒くんはきっと気づいてしまったんだ。
自分がただ消費されるだけのプロトタイプ、先行実験体であるということ。
結衣くんはまだ自分が「ミューズ」だと思っている。
でも、璃緒くんは明確に己を「プロトタイプ」と綴った。
いや、結衣くんもわかっているのかもしれない。
そのうえであえて「あなたのミューズ」としたのかもしれない。
責任。逃げることはもう許されない。
2人は待っている。
怖い。
また壊してしまうのではと思うたび、いっそのことなかったことにしてしまえばと何度も思った。
でもそれを、何者でもなく、僕が許せなかった。
彼らが、許してくれなかった。
これは僕が、僕自身の手で遂行しなければならばい。
殺してきた彼らが、処分した数だけの彼らの思いが、意志が、願いが。
きっと僕を許さない。
苦しい。憎い。でも憎いほど、狂おしいほど愛おしい。
僕が、僕がやらなければいけない。
必ず、彼らを連れ出さないといけない。
ここに閉じ込めては、彼らの幸せはない。
なんとしてでも、僕の二の舞にしてはいけない。
もう一度だけ、失ったものに向き合う。
どんなに苦しくても、これが最善のはずなんだ。
そう思い込むしかない。
正気でやってられることではない。
すべてが間違いだったなんて、僕は認められない。
だから何度でも、やらなきゃいけない。
今、会いに行くね。
待っててくれて、ありがとう。
bottom of page